今回は次の2つのテーマについて紹介します。まず「衣類と介護」では、介護の必要なお年寄りが生活しやすく、介護も楽な衣類と、簡単なリフォーム等について紹介します。
 次に「コミュニケーションの工夫」では、失語症について知り、言語に障害がある方とのコミュニケーションについて理解を深めます。

 今回は「衣類と介護」のテーマで、札幌にある(株)特殊衣料の池田啓子代表取締役社長に、加齢に応じた衣類を選ぶためのポイントと、市販の衣類を利用したお年寄りや障害をもつ方にやさしい衣類のリフォームについて紹介していただきます。

 高齢者や障害者用の衣類については、「やぼったくて、オシャレじゃない」、「普通の既製服を我慢しながら着ている」、「障害に応じてリフォームしてくれるところが少ない」、「リフォームにだしても高い値段をとられる」、「デザインよりも機能性を重視している」、「一目見て障害者用とわかるデザインである」、「数が少なく選択の幅がない」といった声が聞かれます。
 しかし、「着ることをあきらめることから寝たきりははじまる」といわれるように、高齢や障害のために室内で過ごす時間が長いからこそ、衣服は、明るく、おしゃれで着心地のよいものを選びたいものです。
 多種多様なニーズの中で、体の機能に合った介護に便利な衣類を探すのは難しいことですが、高齢者や障害をもつ方の「衣服にもとめられること」、「アレンジするヒント」を知ることで、現在使用している衣服や、市販品にほんの少し手を加えるだけで、体と心にやさしい衣服に変えることができます。
 高齢者や障害をもつ方が衣服に求めているものを知り、それを叶えるための努力が大切だと思います。

 高齢者用の衣服には次のことが求められます。
@ 脱ぎ着が楽で、生活行動で便利なもの
A 温度調節のできるもの
B 安全な素材・デザインのもの
C 洗濯がしやすく丈夫なもの
D おしゃれで、心が華やぐもの
E 体の欠点をカバーできるデザインのもの
 年齢を重ねるとともに体型は変化していきます。例えば、「肩幅が狭くなる」、「腕のつけ根が前による」、「胸回りとウエストが同寸法になったりする」といったことです。着脱が楽で着心地もよく、その人らしさを表現できるようなおしゃれ心を忘れない衣服でありたいものです。

 では、次に加齢に応じた衣類を選ぶためのポイントについて紹介いたします。

着脱がしやすい工夫
@ 前開きか、衿ぐりが大きめのもの
A 袖ぐりを大きく、ゆったりとさせる
B ファスナーは長めにつける
 ズボンのファスナーは、通常は20センチ位なので、25センチ位に長くします。ワンピースの場合は、上からかぶらずに、足の方から脱ぎ着ができるように56〜60センチ位のファスナーの長さにします。また、ファスナーのつまみは小さいので、リング等の大きめの飾りをつけ、つかみやすくします。さらに、車椅子の方の場合、ファスナーを一番下まで延ばし座ったままでも尿瓶が使えるようにします。
C ボタンは、大きく平らで、すべりがよく、中央に凹みがあり、指にひっかかりのあるものがよいです。(最小で直径1.5センチ)

着て楽なもの
@ 適度のゆとりのあるもの
A 軽いもの
 体力のない方は重さが負担になります。分厚いものを一枚着るよりも、うすてのものを二枚着る方が暖かいです。また綿、麻は重いので、軽いナイロンやアクリルとの混紡にすると軽くなります。
B 伸縮性のあるもの(ニット等がよい)
C 体型や姿勢に合わせたデザイン(一般のものと外見が変わらなく、さりげなく配慮したもの)

温度調整が簡単にできるもの
 高齢者になると、体温調整の機能が衰え、体温の変化を感知する能力も低下してきます。マヒした部分は血行が悪く、冷えやすくなりますので、ケープ、ベスト、ひざ掛け、スカーフ、帽子等の手軽に脱ぎ着できるものを側に用意したいものです。

素材の選択
 いろいろな機能性をもった繊維素材がありますので、それぞれの素材の特徴を生かして、障害の症状や生活習慣、経済性等に応じたものを選ぶことが大切です。
 例えば、「透湿防水加工」や「消臭加工」は、失禁パンツ、シーツ、オムツカバー等に使われ、「抗菌防臭加工」は、タオル、肌着等に使われます。その他にも「防ダニ加工」、「難燃加工」、「遠赤外線発熱繊維」等があります。

安全性
@ 日常生活で、転んだりしないように裾の長さを短めにしたり、すべらないくつ下などをはくようにします。
A 袖の形が、手首の方にまで大きくなっていると、ガスコンロの火がついたり、鍋をひっくり返したりする危険性があるので、小さめにしたり、袖口にゴムを入れたりします。
B 高温でどろどろに溶ける化学繊維は、火災の場合火傷の被害が大きいので気をつけます。
C 蛍光塗料のついたシール等を衣服の一部につけることで、交通事故防止になります。

生活行動において便利なこと
@ トイレの操作が簡単にできること
 男性はズボンのファスナーを長くし、パンツの前部の打合せを浅くします。女性はパンツやズボンのゴムを細くて、長いものにします。
A ポケットをつける
B 冷房での冷えを防止するためには、袖丈はひじがかくれる方がよい

明るい色柄にする
 加齢と共に、顔の色がくすんでくるので、顔の近くに明るい色をもってくると、顔色がきれいに見えます。

欠点をかくす
 着やすく工夫するだけではなく、それをカバーし、一般の服と外見がかわらないものにすることも大切です。例えば、プリーツをつけ周囲にふくらみをもたせたり、首のしわや筋が気になる時にはスカーフで隠したりします。またアクセサリーで目線をそらせる等の工夫をします。

 昨年の秋、札幌市内のある老人保健施設で健康文化祭が開催され、入所されている方やデイサービスに通われている方がモデルのファッションショーがありました。私共は、既製品をリフォームした衣類や車椅子用の便利な服等をお貸しして、お手伝いをさせていただき、あらためておしゃれすることの大切さを教えていただきました。
 当日、会場の控え室では、きれいにお化粧をし襟元をなおす方、手鏡を懐から取り出し髪をなおす方など、モデルの方達の緊張感が伝わってきます。そして本番、職員の方にサポートされながらホールの中央まで進んでいく姿は、少し照れながらもとても嬉しそうで輝いています。司会者の要望に答えてターンを披露してくれる方もおり、みなさん背筋を伸ばし、実に堂々としているのです。会場の仲間や家族達から「ステキ!」、「若いねー」と声がかかると笑顔がこぼれ、車椅子で登場した女性は、なんと立ち上がって後ろ姿まで披露して、職員の方がハラハラするほど協力してくれたのです。
 大きな拍手の中に、職員、地域の方、ボランティア、そして家族の方達のあたたかい交流の輪がありました。日々、介護されている職員の方達が、お年寄り一人一人の身体状況を考慮し、個性の活かせる、似合うものを選び、お年寄りの「おしゃれする嬉しさ」をひきだしたことが、このような大きな拍手につながったのだと思います。
 一日の中のたとえわずかな時間だとしても、自分に似合うもの、自信の持てる衣服を身につけることができたら、幸せではないでしょうか。
 そんなお手伝いが今後も続けられるように努力していきたいと思っています。

 実際にご家庭でできるリフォームのいくつかを紹介いたします。


(株)オイレス 地域リハビリテーション推進部 主任アドバイザー 粟倉和子 (言語聴覚士)
 私達は、日々の暮らしの中で言葉によって周りの人々と意志を伝え合い、コミュニケーションを成立させます。また、言葉によってものを考えたり感情を表したりします。この言葉に障害がおこると、重大なハンディキャップとなり、生活上大きな支障をきたすのです。
 言語障害者は心理的にも辛く、厳しい状況に置かれます。なぜなら、言語障害者は言葉で自分の苦しさをうまく人に伝えられません。愚痴も言えず、喧嘩も思うようには出来ないストレスは想像以上に大きいものです。さらに、一見しただけではよくわからない障害であるために、誤解されやすく、不当な扱いを受ける場合もあります。
 ここでは、失語症についての理解を深め、上手に接していただくためのヒントをいくつか挙げていきます。

失語症とは?
 脳の言語中枢に障害を受けた結果、言葉を「話す」「聞いて理解する」、文字を「読む」「書く」が困難になる障害です。原因の多くは脳血管障害ですが、交通事故や脳腫瘍などでもおこることがあります。ほとんどの人の言語中枢は左脳にあるため、右片麻痺に伴っておこることが多いのです。
 言語をうまく使えなくなったからと言って、知的障害(痴呆など)ではありません。

失語症の症状
 言いたい事があるのになかなか言葉が出ない、違う言葉や違う音に言い誤まるなどの話す側面の障害や、相手の話の意味が理解できなくなる聞く側面の障害、さらに文字を読んだり書いたりする側面にも不自由があります。失語症の方の多くは、仮名のほうが漢字よりも読み書きが難しくなる特徴があります。障害された脳の部位や広がりによって出てくる症状、重症度は様々です。

失語症の方と接するポイント
 失語症の方は、聞いて理解することに障害がありますので、わかりやすい言葉で、具体的な事柄について、ゆっくり話しかけてください。言葉だけでなく、表情や動作、実物をみせるなど、目からも情報を入れるようにするとわかりやすいようです。
 本人が思うように話せない場合は、「ほら言ってごらん」などと、話すことを強要したりしないようにしましょう。本人が「はい」や「いいえ」で答えられるように問いかけたり、選択肢をあげて選んでもらうようにしながら会話をリードします。本人が話そうとしているときは、急かしたりせず、ゆっくりと待ってあげましょう。また、言えた言葉が間違っていても何を言おうとしているのかがわかるときは、むやみに訂正したり、言いなおしをさせたりしないでください。言えないからといって五十音表の指差しをさせたり、安易に「書いて」と要求することもさけなければなりません。

コミュニケーションを深めるために
 コミュニケーションの手段には大きく分けて二種類あります。その一つが言葉や文字などの言語的手段。もう一つが表情や身振り、指差しや声の調子、絵などの非言語的手段です。言語障害者は非言語的手段は保たれていることが多いので、会話をするときには言葉だけでなく表情や身振りなどあらゆる方法を駆使し、分かり合えるように努力しましょう。
 また、コミュニケーションは人に会いたいという意欲や、人と話したいという気持、必要性がなければ生まれません。言語障害者の何かを伝えたいという気持ちを引き出して、それを持ち続けてもらうようにすることが大切です。
 日々関わる周囲の人々がその障害を理解し、精神的に励ましていくことが言語障害者の意欲と実用的なコミュニケーション能力の向上につながるのです。

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