北海道介護実習・普及センターでは、専門家がお年寄りの介護をしているご家庭を訪問し、住み慣れた家で安心して生活していくための介護の工夫や福祉用具の活用方法・住宅改修のポイント等について検討する事業を行っています。
 今回はその中から2つの事例を紹介し、介護のちょっとした工夫や福祉用具の利用による生活改善の方法、そして住宅改修のポイント等について考えてみるとともに、住み慣れた家で自分らしく生活しながら、介護する側にもされる側にも笑顔があふれる、そんないきいきとした生活を送るためのポイントについて一緒に考えていくことができればと思います。

事例1 相馬 和男さん(仮称・64歳)のケース
 自分の建てた家でずっと暮らしたい…
現在の生活について
 相馬 和男さん(仮称・64歳)は、妻 ユキさん(仮称・64歳)と息子 安男さん(仮称・34歳)そして妻の香奈さん(仮称・29歳)の4人暮らしで、住宅関係の仕事をしており、夫婦ともに健康状態は良好です。
 現在住む家は、老後も安全に暮らせるよう、段差等に十分配慮した上ですが、最近になって玄関での靴の着脱や入浴時に浴そうへ入る際に、ふらつきやつまづき等を感じることが多くなり、転倒の危険を感じるようになりました。
 そこで「自分の建てた家で転倒の危険等を感じずに安心してずっと暮らせるようにするにはどうしたらよいか」と考えるようになりました。また、「例え介護を受けることになっても、ずっとこの家で暮らしたい」とも考えています。
 和男さんは息子夫婦と同居していますが、息子夫婦は両親の意向を重視していきたいと考えており、両親に介護が必要になったとしても、在宅生活を続けて欲しいと考えています。
 しかし、福祉用具を活用したり住宅改修を行いながら、介護を軽減できるところは軽減し、日常のリハビリのためにも自分でできることは自分でしてもらうような介護をしたいとも考えており、専門家の相談を活用して、介護が必要になったとき、どのような点に気をつけて福祉用具を購入するべきなのか、また、どのような住宅改修が必要なのか(予算等)を知りたいと考えています。
 急を要するものではありませんが、予防や今後の参考のためにということで、相談いただいたケースです。

安心して生活していくための
様々な方法や工夫を考えてみましょう

 そこで、在宅介護支援センターのケアマネジャーと福祉用具の専門家で、和男さんとユキさんが安心して生活していくための様々な方法や工夫を考えてみました。

転倒事故を予防するために今の住まいでできる
福祉用具の活用・住宅改修について考えてみましょう

 和男さんの家はトイレやお風呂そして廊下等の広さや幅については十分配慮されていますが、玄関で靴を履脱するときに若干のふらつきがあり、また、浴槽に入るときにはつまづきを感じる等、最近、段差を意識することが多くなっているようです。

ケアマネジャー・福祉用具専門家からのアドバイス
 現在、和男さんも妻ユキさんも、要介護認定を受ける状態にはありません。
 今回の相談を通して、現在不安に感じていること(つまづきやふらつき)への解消や介護予防につながるアドバイスとして参考にしていただくことができたのではと思いますが、実際に要介護状態になった時、軽度・重度により必要となる福祉用具や住宅改修のポイントは異なるため、必ず専門家に相談をいただくことが必要です。
 例えば、車椅子を必要とする生活と自分で歩ける生活とでは福祉用具や住宅改修方法が異なりますし、片麻痺となった場合、その麻痺が右側か左側かによっても手すりの取り付ける位置等が異なります。
 今回の相談においては、現在不安に感じている事項についてアドバイスをさせていただきましたが、今後は随時連絡を取りながら、必要となるものや日常生活の不安について、アドバイスしていきたいと考えています。

事例2 加藤イクさん(仮称・92歳)のケース
 夜、安心して眠れる介護工夫を教えてほしい…
生活暦と現在の状況について
 イクさんは夫の死去後数年独居されていましたが、物忘れが多くなり、札幌に住んでいた娘の真紀さん(仮称)が介護のためにこの町に来て、約6年になります。
 現在は老人性痴呆の他、変形性腰椎等複数の疾患により、介護保険制度の要介護4を認定され、娘の真紀さん(仮称)の介護を受けながら生活しています。
 イクさんは家の中では伝い歩きができ何とか自立していますが、外出時は介助を必要としています。
 また、食事や着替えは時間がかかりながらも自分ですることができます。
 しかし、5年程前から不眠の症状がひどくなり、夜間の徘徊が強く、昼夜逆転している状況にあります。
 排泄においては、尿・便失禁がありオムツを使用していますが、不快感を持つようでオムツをはずしてしまいます。自分でトイレへも行きますが、トイレットペーパーをばらまいてしまうなど、その都度、見守りや声かけが必要な状態で、入浴は週1回、ホームヘルプサービスを利用して介助を受けています。平成13年10月まではデイサービスを週2回利用していましたが、昼夜逆転により起床時間が遅くなり、送迎時間に間に合わないため休止したとのことでした。
 最近では衣服を着る順番に用意をして、声をかけてもなかなか着る事ができなくなっている状態が続いているようで、家族は施設入所を希望していますが、経済面の不安もあり家庭で介護を続けています。

介護者の状況と介護の負担について
介護者 加藤 真紀さん(仮称・72歳)
 イクさんの不眠の症状がひどくなってから、夜間の徘徊への見守り等により非常に疲労が溜まっているようにうかがえます。
 また、尿・便失禁時の保清や着替えの介助、オムツをいじった際の片づけの他、日常生活全般の見守りから介助に到るまで全て真紀さんが介助を行っている状態です。
 介護を始めた頃に比べると、介護負担の訴えが見られるようになってきていますが、長年の介護の経験から関わりへの工夫や、自分の時間を持つ等の工夫ができるようになってきています。

イクさんをとりまく地域の
介護支援者の関わりについて

 ホームヘルプサービス、デイサービスセンター、ショートステイ、医療機関、在宅介護支援センター等サービス利用時の身体状態等について必要に応じて連絡調整を取り、随時、課題の検討やケース会議を開いています。
 真紀さんにも負担の軽減に多くのサービス利用を促していますが、痴呆症状による昼夜逆転があり、生活のリズムがとれない状況にあるため、デイサービスの利用を計画する事ができません。
 昼夜逆転の減少のための、日中の過ごし方等について相談しながら様々な方法を試していますが、改善できないうちに次々課題が発生し十分な対応ができない状況にあります。

介護者である真紀さんの希望と抱える問題や課題について
 真紀さんも72歳と高齢のため、介護の負担が大きいようです。
 イクさんの昼夜逆転やオムツをはずす等の行動が減少して、なるべくゆっくり就寝できるようになればというのが切実な思いのようです。
 現在は課題の1つが改善できるかできないうちに、また、新たな課題が出ているため真紀さんは、若干混乱状態にあるようです。
 そこで、「出前介護講座」の講師が、真紀さんが夜、安心して眠れるような介護の様々な方法や工夫を考えてみました。

安眠に向けた介護のポイント
日中の過ごし方を見直してみましょう。
@訪問看護やホームヘルパーによる外出介助・簡単なリハビリ運動を行うことは、身体を動かす等、運動により適度な疲労感を与えることができるので安眠を促進できるでしょう。
医師に相談してみましょう。
@精神科に受診または、主治医に相談し眠薬等で不眠を解消する方法もあります。
排泄介助の見直しをしてみましょう。
@トイレへ誘導の時間帯や介助のやり方等を見直し頻回に行えるような体制を組んでみましょう。
A不快感のない紙おむつへ変更する等おむつの見直しをしてみましょう。
就寝前のケアも大切です。
@足浴等により交感神経の緊張を抑え血圧を低くすることも必要です。
A快眠効果のある牛乳を飲む等の工夫をしてみましょう。
生活リズムの安定化
@一般的に痴呆老人は環境適応能力が低い為、生活のリズムが崩れる傾向にあります。それらのことを考慮してショートステイを利用してみてはどうでしょう。
A起床時間を解決し再度デイサービスセンターの利用を検討するのも効果的です。

講師からの今後の介護にむけたアドバイス
●家庭介護者の介護(痴呆老人に対する理解)知識・技術の習得。
 介護者となりうる方は、この先どのような現実が待ち受けているか。又どのくらいの費用や労力がかかるのかを予測できないでいます。目先の介護対策だけでなく将来的にどうしたいのか、どのような選択があるのかを早い時期に話し合い納得していただくことが不可欠になります。
●サービス開始時の家庭介護者への精神的アプローチ
 サービスは、開始時期が非常に重要です。他者が係わってケアしていくことに家族はまだ不慣れな状態です。
 要介護者と介護者に関わる全てのサービス提供者が同じ方向性でサポートしていくことが大切です。

◎痴呆老人のケアについて
 規則正しい生活のリズムを作ることが先決です。
 外出など積極的に他者と触れ合うことが大切です。
 環境の変化に気を配ることが大切です。

◎介護者教育の重要性
 地域の方々の介護に対する理解や、サービスの利用方法など理解と協力を求められる環境作りが必要です。

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