北海道介護実習・普及センターでは、ケアマネージャーなどを通じて相談を頂いたご家庭に訪問し福祉用具の利用や住宅の改修に関するアドバイスを 行っています。
 当センターが実際に関わらせて頂いた事例のいくつかをご紹介します。それぞれの事例の取り組みや専門家の助言を通して、お年寄りが住み慣れた地域で 活き活きと暮らしていくための環境づくりの方法について考えて頂ければ幸いです。

相談例 1
 新居への転居。でも屋内の安全が心配で…

 要介護1の認定を受けているAさんは現在91歳の女性、一軒家に娘さん夫婦と同居しています。主に入浴のため、週2回デイサービスを 利用しています。
 Aさんは膝関節症と白内障を患っており、歩行が不安定で、シルバーカーや杖を利用して何とか歩いている状況です。
 このAさん一家が、一軒家を処分しマンションに引っ越すことになりました。
 マンションは新築でバリアフリー設計ですが、高齢のAさんにとり、住み慣れた家から環境が一変することは大きな負担です。 場合によっては、不慣れな室内の移動による転倒などの可能性も考えられます。
 そこで、担当ケアマネージャーから北海道介護実習・普及センターに、実際の入居の前に、新居でのAさんの安全のため気をつけること、 また住宅改修の必要性の有無などを助言して欲しいとの相談を頂きました。


Aさんの身体状況・生活状況と、新居の状況を確認してみました。
○身体の状況
  • 変形性膝関節症で、長時間の立位や歩行が困難。
  • 白内障のため、特に暗いところでものが見えにくい。
  • ○現在の生活(一軒家)の状況
  • 屋外は杖やシルバーカーを使用、自宅内ではつかまり歩き等で移動。  靴の着脱など不安定な体勢の動作は、座って行っている。
  • 食事やトイレなどは1階だが、日中は2階で過ごす(階段を自力で昇降)。
  • 古い家のため、室内はバリアーとなる仕様が多い。
  • 長年住み慣れた家のため、屋内での動線は安定しており、考え込まずに移動できる。
  • ○新居の状況
  • バリアフリー仕様の新築物件。  廊下幅等も比較的広めの設計。


  • 廊下の広さに対し、照明の光量が比較的低い。
    夜間の廊下の移動(トイレ等)に配慮し、照明を設置する。照明器具には、スイッチ操作の必要のない「人感センサ」をセットする。 また、照明が眩しすぎてもAさんには見えにくくなるので、間接照明タイプの器具を選ぶ。
    玄関の上がり框は段差4cmと低く、段差が大きいよりもかえってつまずきやすい。
    色も土間部分と同系統のため、視認性が低い。
    土間部分に椅子を設置して、靴の着脱時に使って頂く。また、上がり框をまたぐ動作の補助のため、 上がり框上部に手すり(縦)を設置する。



    ■高齢者にとり、住み慣れた家からの転居は心身共に大きなストレスとなります。生活意欲維持のためにも、なるべく現在の 生活パターンを踏襲できるよう工夫が必要です(例‥ベッドに入る方向が現在と同じになるような向きでベッドを設置する)。

    ■またこのケースでは、現家屋にバリアーがあることで、身体への負荷(段差など)や活動量(階段の昇降など)が良い意味で 強制されていました。バリアフリーの新居に移ることで日常生活の活動性が落ちてしまうことが懸念されるので、デイサービス等 での身体機能・能力維持のためのフォローを考えましょう。

    ■入居前のチェックは以上ですが、新居への転居後こそが支援の本番とも言えます。新生活が落ち着いてきた段階で、入居前に 気づかなかった問題がないか、新たな改修箇所が生じていないか、適宜確認していく必要があります。

    相談例 2
     認知症の妻を夫が介護。在宅介護のポイントは?

     Cさんは現在82歳の女性、4年前に脳梗塞で倒れ、軽度の右マヒになりました。当時の要介護認定は1で、軽度の認知症の症状が出ていましたが、 半年前にカゼで一時入院したことがきっかけで認知症・身体能力の低下が共に進行し、現在は要介護4となっています。
     現在は、同居する83歳の夫が在宅介護をしています。週3回デイサービスを利用しています。
     夫はサービスの利用に抵抗感(申し訳なさ)があり、デイサービスを利用する以外は殆ど一人で一生懸命にCさんを介護しています。
     地元の居宅介護支援事業所の仲介で、このCさん宅を訪問し、介護の状況についてお話をお伺いすると共に、より快適で安心な暮らしを つくるための工夫を一緒に考えました。

    Bさんの身体状況・生活状況と、 新居の状況を確認してみました。
    ○心身の状況
  • 軽度の右マヒがある。全身、特に下肢筋力の低下が著しく、全ての日常生活に介護が必要。
  • 認知症は進んでおり、最近、自分から話すことが少ない。周囲の意識が自分に向いていないと眠ってしまう傾向がある。
  • ○現在の生活の状況
  • 寝起き・食事・トイレ・入浴など、生活全般を同居の夫が介護している。
  • 夫は、介護技術のレクチャーは特に受けたことがない。
  • 手すりの設置など住宅改修は行っていない。福祉用具も殆ど利用していない。




  • Cさんの認知症は重度だが、簡単な文で、
    ゆっくり身振りを交えて話すと、わかって頂ける。
    デイサービス利用時、スタッフに細やかに話しかけてもらい、思考活動を誘導する。
  • 玄関にCさんの掴まれるところがなく、出入りの際は夫がCさんを抱きかかえるようにして介護している。
  • Cさんは布団で寝起きしており、立ち上がりの際はやはり夫が抱きかかえている。
  • トイレは定時に誘導しているが、排泄リズムが安定せず、おむつにしてしまうことが多い。
  • 夫に、介護する方・される方のどちらにも安全で適切な介護技術を知って頂く。 介護保険の住宅改修を利用して、玄関とトイレに手すりを設置することで、Cさんと夫の負担を どちらも軽減する。
    また、電動ベッドとポータブルトイレを導入し、夜間の排泄はポータブルを利用する。



    ■高齢者の夫婦間による介護は、介護者の負担が特に大きいため、在宅生活を支えるには各種サービスの適切な利用が欠かせません。

    ■Cさんのケースでは、夫は当初サービス利用に消極的でしたが、専門家の詳細なアドバイスを受け、まず住宅改修と電動ベッドの 導入を行った結果、介護負担の軽減を実感して大変喜ばれました。更に適切な介護技術の基本を知って頂くことで、力に頼った無理な介 護が少なくなったようです。

    ■また、家庭だけでなくデイサービスでもCさんへの声かけを徹底したことにより、声を出す・笑顔を見せるなどの変化が見られる ようになり、周囲も喜んでいます。
     
    ■しかし、高齢者間の介護ではご本人のみならず介護者も状況が変わりやすいので、サービス機関等の支援者は介護者の状態にも注意を 払った上で、安全で、できるだけ心身の負担の少ない生活の仕方を提案していくことが必要でしょう。

    Copyright (C) Hokkaido Care Practice Spread Center